感情に振り回される、といいます。

・腹が立って、思わず放ったことばで、相手との関係が終わってしまった。

・目指していた学校に合格できずに、どうせ何をやっても無駄だと自暴自棄になってしまった。

・嫌われるのが怖くて、誰にでも良い印象を持たれるように、相手に合わせ続けている。

・好きな人に受け入れられずに、惨めで悲しくて、何もやる気が起きない。

いずれも、強い感情に私たちは圧倒され、日常もままならなくなり、調子を崩します。学校や職場に行けなくなったり、一人引きこもってしまったり、食事が喉を通らなくなったり、眠れなくなってしまったりと、心の健康が脅かされます。

感情という厄介なものに振り回されずに、いつも心を平安に過ごせたら、どれほど楽なことでしょうか。

心を病み、苦しみ、心の治療に訪れる人が、苦しい感情から解放されたいと願うのは、自然な思いです。すぐに楽になり、すっきりしたい、と。

当院では、心理療法やリワークプログラムといった心の治療の機会を提供しています。心理療法では、患者さん個人が、セラピストと一対一の治療関係を持ちます。リワークプログラムは集団療法で、休職した方が復職を目指したグループに入ります。治療の設定や構造、舞台は、両者で大きく違います。また、目指すところも違ってきます。

それでも、自分の心に出会う、という点は、共通しているところです。いずれの治療も、体験/経験なのです。

それは、「苦しみが生じるメカニズムを図解し、それを頭で知的に覚えて、自分の苦しみや困難に適応して、解決する」ということとは、違います。現象を客観視して適応することとは、違います。

心理療法ならセラピストという人間を相手にして、リワークプログラムでもグループの中での人間関係を通じて、そこでその人が体験/経験する「何ものか」が、手がかりです。心理療法でもリワークプログラムでも、それが進めば、自分を苦しめるあの感情が、湧き上がってきます。解放されたかったはずの感情に、また苦しめられる。だから、行きたくなくなったり、どうせやっても無駄だと思ったり、気持ちが落ち込んだり、苦しくなったり。

治療を始めたのに、良くなるどころか、悪くなった。そういう体験が起きます。

心の治療では、そういうあなたに出会い、考えたいと思います。今までの人生では、どうにもできなかったものを。感情に圧倒され、引きこもり、見ないようして、やりすごそうとしてた自分を。そういう苦しんでいる自分自身を、実際に治療の中で体験し、粘り強く一緒に考える経験をする。

あるいは、こういう文章も、知的な部分が大きいものなのだろうと思います。

悩みながらも、心の治療を体験し経験している方に、そしてその経験に向かおうとしている方に、届いたら幸いです。