国民に愛され続けてきたこの作品は、日本人独特の恥と意地を象徴したストーリーとも言われます。四十七士らの、自身の誇りをかけた復讐劇は、心理学的な言葉でいえば自尊心や自己肯定感をかけた戦いだったのかもしれません。今も昔も、人は自尊心がゼロでは生きていくことができないと思います。だからそれを守るために、人は「意地を張る」、「がんばる」、「根性を見せる」といった行動に駆り立てられるものなのではないでしょうか。ひたすら努力することで社会的承認を得る、それが意地であり、日本人の美学でもあるように感じます。
話をリワークに移します。休職というのは多かれ少なかれ、自尊心の傷つきを伴う体験でしょう。そして復職は、名誉挽回、自尊心の回復の機会といえます。医療の立場からは、この機会に対し、意地を張る、がんばるという形で立ち向かっていくことには、賛成できない部分があります。忠臣蔵の四十七士は、復讐は果たしたものの、その後に何も残らない結末を迎えます(栄誉は歴史に残りましたが)。湧き上がる意地や、それに伴うあせりの気持ちを、復職にあたってはグッとこらえて、これから少し長いスパンでじっくりと、名誉と自尊心を回復させていくことを願います。主君を失い未来を絶たれた四十七士と異なり、復職を目指すみなさんは、自らの能力や特性を活かす機会がこれからいくらでも待っていると考えるからです。リワークを通じて磨かれ、バージョンアップされたみなさんの力が、今後十分に発揮されていくよう、スタッフもじっくりとみなさんと向き合い、支え、そして送り出したいと思います。
*参考図書:『恥と意地−日本人の心理構造』鑪幹八郎著