12月。今年も残りわずかです。
「個人プレゼンテーション」というリワークプログラムがあります。
毎月1回実施しています。
個人プレゼンテーションは、メンバーが一人ひとり、リワークメンバーとスタッフとを前にしてプレゼンテーションするプログラムです。
発表時間は5分間。
毎月、プレゼンテーションのテーマがスタッフから発表されます。
メンバーは、そのテーマから発表内容を考えます。そして、プレゼンに向けて準備をします。
個人プレゼンへの取り組み方を通じて、各メンバーが個人で仕事をするときの傾向が現れます。
余裕をもって準備に取り掛かる人。
直前になって慌てて準備する人。
毎日コツコツ準備をする人。
一夜漬けのように直前に仕事をする人。
リワークの個別作業の時間を使って準備をする人。
家に持ち帰って仕事をする人。
さまざまです。

また、発表のツールの選択などにも、その人らしさが表現されます。
パワーポイントなどのプレゼンテーションソフトを使う人。
パソコンは使わずに、口頭で発表する人。
手書きの絵や文字を使って発表する人。
さまざまです。

リワークでは、休職に至った自分の変化を何らかの形で目指します。
その変化があるから、職場に戻った時に休職したときと同じような事態に直面しても、今度は職場を休む方向を採らずに済む訳です。

職場の仕事では、いつも〆切直前にならないと仕事に手がつかなかったメンバーがいたとしましょう。
その人は、やるべき業務があることはわかっていました。でも、手をつけずに後回しにしていました。
それでやれている分には良かったのです。
でも、業務が増すと、直前に仕上げるやり方では、上手くいきません。
しかも、この人は困っていることを職場で言えなかったとします。
つまり、「まだ手をつけていない業務があって、新しい業務に手が回りません」とは言えないのです。
こういう状態がずっと続いています。その一つの延長線上に、休職があったのかもしれません。

こういう方が、個人プレゼンというプログラムに取組むときに、何が大事になるでしょうか。
立派な内容のプレゼンをすることでしょうか。
素晴らしいパワーポイントを作ることでしょうか。
皆から「すごい」と言われるようなプレゼンをすることでしょうか。

それよりもずっと優先すべきは、職場でやっていた仕事の仕方とは違うやり方で、個人プレゼンの仕事をすることです。

つまり、直前まで手をつけずに後回しする仕事の仕方を変えることです。
また、プレゼンの準備で分からないことや困ったことがあったら、自分からスタッフに早めに相談することです。

休職に至ったときと同じ仕事の仕方を続けて、すごいパワーポイントを作ったとしても、その人の変化には繋がらないのです。

ここまでは、個人プレゼンへの仕事の取り組み方を、復職に向けての変化という観点から、述べました。

個人プレゼンは、しかし、その発表内容にも、その人らしさが表現されます。
また、プレゼンはコミュニケーションの一つでもあります。
自分のプレゼンをメンバーとスタッフに見てもらう。
そして、他のメンバーのプレゼンを見る。
お互いにプレゼンをし合う経験です。
自分を知ってもらう経験でもあり、相手への興味を持つきっかけにもなる経験です。


今月12月の個人プレゼンのテーマは、「2018年の私を振り返る」でした。
プレゼンを通じて、多くのメンバーが、休職に至ったときの体験を振り返りました。
2018年という年を振り返るときに、何らかの形で休職にまつわる苦しみに触れる内容が多かったと思います。
休職した自分が、今年を終えるとき、どう自分を物語るのか。
多くのメンバーが、リワークとの出会いを、リワークでの体験をプレゼンの内容にされていました。
そういう経験をされていたのか、とあらためて知る発表もありました。
そのメンバーが休職を経て、どういう個人的な治療的経験を持ってきたのか。相手に伝わる言葉で発表されていました。
発表を聞いているメンバーは、全員、休職している方です。そして、今ここで治療的経験の最中になる方たちです。
発表の内容が、そういうメンバーの経験に触れる発表だと、聞いている側の感情移入も強くなります。心が動きます。

一方、個人プレゼンの内容に、あまり「私」が見えない傾向の発表もあります。
情報提供型のプレゼンが、その代表です。
情報を知る、という点では、有益です。
ただ、リワークの個人プレゼンに、情報提供型を求めているかというと、そうではありません。
大事なのは、ただの情報提供型のプレゼンで終わらないことが、大事になります。
情報提供型のプレゼンに見えたとしても、発表の中核に、「なぜ私がこの情報に興味を持つことになったのか」という問題意識があるかどうかです。
つまり、「私」があるかどうかです。

個人プレゼンの内容にも、その人らしさが出ます。
「私」に傾く内容。
「情報」に傾く内容。
「私」に傾くとしても、その「私」をどう提示するのか。
「情報」に傾くとしても、その「情報」をどう提示するのか。

個人プレゼンひとつとっても、リワークプログラムの経験には、その人らしさがはっきりと出てきます。
プログラムという経験を治療的な経験にできるかは、ただ「プログラムが終わった」で経験を終るのではなくて、どういう自分に出会ったのかを、感じ取ることです。考えることです。
そして、どいういう他者と出会えたのか、感じること、考えることです。

そうした経験を、お互いに感じ合って、考え合うことです。

そうしていると、必ず、休職に至った時の自分と出会います。
休職に至ったメンバーにも出会います。


そうした出会いを繰り返し、ともに考えることを繰り返していくときに、いずれは新しい自分との出会いが待っています。