そろそろ梅雨が明け、夏本番を迎える時期になりました。
 8月に入ると世界陸上、夏の高校野球、サッカーW杯最終予選などスポーツの大きなイベントが続きます。選手たちは大舞台でのプレッシャーとどう向き合うのでしょうか。プレッシャーに対処する方法はいろいろ考えられますが、心理学の視点からそのうちのいくつかを紹介します。

1、プレッシャーに襲われた時には、「お、来た来た。どうぞいらっしゃい」という構えで。
 プレッシャーは何事かを真剣にやろうとすれば、感じるほうがむしろ当たり前といえます。ですから、敵視しなくて良いと考えるのです。また最高のパフォーマンスが発揮されるのは、完全にリラックスした状態ではなく、ほどよいストレスがかかった時とも言われます(ヤーキーズ・ドッドソンの法則)。
 メジャーリーグのイチロー選手は安打記録のプレッシャーの渦中にいた時を振り返ってこう述べました。
「やっている最中にプレッシャーから解き放たれることは不可能です。そこから抜け出す方法はない」「でもそう思えたことは大きいですよ。あるかもしれないと思っているのと、ないんだと割り切っているのとでは、プレッシャーに対する向き合い方はまったく違ってきますからね」
 大事な場面でのプレッシャー、それは異常ではなくむしろ正常な証拠ともいえるでしょう。「プレッシャーは友だち、怖くないよ!」(「キャプテン翼」の似たセリフ、知ってますか?)

2、「前後裁断」
 過去と未来は切り離して、今に集中するということです。
「済んでしまったことをいつまでも追いかけてはいけない。まだ来ないことに想いを馳せてはならない。今ここになすべきことを熱心に行いなさい」(青山俊童:曹洞宗尼僧)
 元阪神タイガースの下柳剛投手はこの言葉を胸に、自身のグラブには「前後裁断」と刺繍していたそうです。自分に今できること、自分が今やるべきことは何か、そこに焦点を当てるということでしょうか。

3、“Motion causes emotion”
 テニスのメンタルコーチ、ジム・レーヤーの言葉です。“emotion 感情”をコントロールするには、“motion 動作”をコントロールせよということです。感情をコントロールするより、運動をコントロールするほうがやりやすいと言われますが、それをさらに進めた考え方でしょう。
Ⅰ.胸を張り、前を向け(姿勢・歩き方):誰しも、好調時は胸を張ってさっそうと歩きます。不調時は下を見てとぼとぼと歩くものです。
Ⅱ.笑顔を作ってみる(笑顔):好調時は表情が明るくなるものです。
Ⅲ.ゆっくりと腹式呼吸で(呼吸):リラックスしているときは呼吸が深くゆっくりしています。
動作(筋肉の運動)を変えることで、精神状態も変えようということですね。

(以上ここでは3つ挙げるにとどめますが、他にも自己暗示、ルーティーンなど様々な視点からの方法が提案されています)

 リワークで復職に向けた取り組みを続けている方々にも、今後大きなプレッシャーに直面する場面が訪れるかもしません。スポーツの世界からのヒントが役立ちそうだと思いませんか。
 選手たちの活躍と同時に、復職を目指す皆さんの順調な復職とその後の活躍を願っています。

参考図書:
『本番に強くなる:メンタルコーチが教えるプレッシャー克服法』白石豊 ちくま文庫 『イチロー262のメッセージ』ぴあ