4月も、もう終わりますね。ゴールデンウィークに突入しますが、皆さんはどのような計画を立てておられますか?

 さて、リワークでは精神科医、看護師、臨床心理士が交代で、それぞれの専門分野に沿って、講義を行う時間が月に1回あります。精神科医が担当する月は、“うつ病講座”、看護師が担当する月は“看護講座”と呼んでいます。4月は臨床心理士が担当しましたので、“心理教育”として実施しました。
 今回の心理教育でのテーマは、「もの想うこころ~コミュニケーションで必要なこと~」でした。このブログでは、どうしてこのテーマを選んだのか、そして何を伝えたかったのかに焦点を当てて、書いていきたいと思います。

リワークへ来られているメンバーさんから、「思っていたことを言えなかった」「辛いこと、しんどいことをため込んで誰にも言えなかった」などと、ご自身の中にため込んでいたことや、辛くなればなるほど孤立化していたことを語られることが多くあります。そして、復職後(今後)は我慢をするのではなく、言えなかったことを言えるようにしたり、自分の思いを相手に理解してもらって、辛い状況を一人で抱え込まないようにしていきたいと感じられている方も多いようです。リワークでのプログラムでは、どうして一人で抱え込むことになったのか、どうして言えなかったのかを振り返り、自身の思いを相手にどのように伝えるかを学んでいきます(もちろん、これ以外にも多様なプログラムはありますし、他の目的もあります)。
 

 プログラムで、メンバーの皆さんといろいろと話し合ったり、課題に取り組んだりする中で、ある“傾向”が気になりました。それが、「もの想うこころ~コミュニケーションで必要なこと~」をテーマに心理教育を行おうと考えたきっかけでもあります。

 「これまで一人で抱えていたので、誰か(上司や同僚、家族など)に思いを伝えられるようになりたいし、それは自分にとって助けになる」との考えは、とても素敵ですし、新たに取り入れられる力として、重要で必要なものだと思います。


とても大切なのですが・・・。

“伝える”や“理解してもらう”ことに焦点が向きすぎて、ご自身の思いを相手に伝えることが強調され、コミュニケーション(交流)ではなく、一方的な関わりに陥っていないでしょうか?

リワークでのグループ作業で考えてみると…
グループ作業では皆である一つのプロジェクトに取り組みます。仕事自体のストレスに加えて、他メンバーと一緒に仕事に取り組むというストレスも出てきます。その中で、自身が辛いなと感じたことを同じグループのメンバーに伝えることや、仕事の進め方について自身の考えや案を提案してみることは、意識的に取り組まれている方は多いと思います。
しかし、グループ作業ではグループが分断化されること、つまりコミュニケーションの希薄さが現れていたように思います。

皆さんが、それぞれの課題を意識的に取り組んでいるにも関わらず、そのようなことが起きるのはどうしてでしょうか?

仕事をしていくなかで、余裕がなくなってくると、「自身の思いを相手に伝えたい、わかって欲しい」、「早く理解してもらいたい」という思いが強くなることがあると思います。そうすると、他者(相手)の状況や様子、思いが見えにくくなってきます。

自身の思いを伝えて、それがキャッチされたかどうかを確認することなく、もっと言えば相手が考えていることや相手の思いを聴くことなく、自身の思いを伝えたことで達成感を抱いたことはないでしょうか?

それはコミュニケーションではなく、一方通行な関わりになってしまっていると思います。自分が中心となり、相手が見えなくなっている(相手にも考えや思いがあることを忘れてしまう)傾向があるように思います。

そこで、コミュニケーションをとるなかで、「もの想うこころ」を働かせていただきたいと思います。


もの想いとは…

赤ん坊が自分の心の中に置いておけない苦痛な心的体験や情緒(おむつが濡れて気持ち悪い・お腹が減ったなど、赤ん坊にとっては何が起こっているのかわからない苦痛な体験)を受け入れ、コンテイニング(抱える、包み込む)していこうとする母親の心的態度と、W.Bionは名づけました。

つまり、母親は赤ん坊が何を求めているのか、どのような状況なのか、どんなことを考えているのか、赤ん坊の泣き声を聴いて、赤ん坊の表情を見て、赤ん坊の心に寄り添い、赤ん坊の心の中で何が起きているのかを考えるのです。

コミュニケーションの中で、この母親の心的態度と言われる機能を活躍させてみませんか?ご自身の想いを伝えることも大切ですが、相手は今どのような状況なのかな?自分が話したことをどのようにキャッチしたのかな?どんな風に思っているのかな?と、相手の立場になって考えてみるのです。赤ん坊を想う母親のような雰囲気で、相手の立場になって考えてみるのはどうでしょうか?
自分のことを知ってもらうには、相手への理解を深めることも必要です。敵視したような態度ではなく、赤ん坊に向かう母親のような雰囲気で、相手の想いにこころに想いをめぐらしてみてください。

伝えっぱなしだと、互いに思いのずれや、理解のずれが生じていても、それに気づくことができずに、互いに嫌な印象を持ち、溝が深まるばかりだったと思います。前述したグループ作業でも、相手の立場や状況に想いを巡らすことが少なく、自分にとって必要なことを告げて終わることが多く、コミュニケーションが十分に取れない状況が生まれていたと思います。

もちろん、どんな時も穏やかに落ち着いて相手の立場に立てるわけではないです。ですが、ふと意識した時に、自身の思いを伝えることに焦点化された、一方通行な関わりになっていなかったか、一度振り返ってみてください。
相手を理解しようとする温かなこころは、他者にも伝わりますし、そのように関わって貰えると、今度はその相手があなたのことを理解しようと、もの想うこころを活躍させてくれるはずです。
コミュニケーションは、一方向で成り立たず、互いに影響し合います。

ご自身のコミュニケーションに何を加えると、より良いものになるのかと悩まれている方には、ぜひ、もの想うこころの機能を活躍させていただきたいと思います。