●摂食障害とは
摂食障害は思春期に発病します。思春期に入ると人は本能の高まり(第二次性徴)に突き動かされることにより子どもから大人になることを要求されます。大人になるということは親から離れなければならないことでもあります。それは心理的にも一個人として生きていかなければならないということを意味します(アイデンティティーの確立)。このプロセスに私たちの心は追いつきません。葛藤が生じます。葛藤は親との関係の中でも現れ、親子関係はギクシャクしてくるのです。ですから、思春期の頃の私たちは誰もが葛藤を内に抱えていて、親からみればある程度「かかわりづらい」ことが標準的な発達をしている証拠でもあるのです。この葛藤をうまく乗り越えられない人たちがいます。摂食障害の方たちはその典型です。親から離れてひとり立ちするためには、ある程度の自信が必要なのですが、摂食障害の方たちは自分に全く自信を持てない方が多いのです。彼女たちの言葉を使えば、「自分には何も良いところがない」、「自分の心は空っぽ」、「私なんか愛されるはずがない」といった思いで表現されます。この「自分には何も良いところがない」という絶望的な無力感こそ彼女たちがずっと幼い頃から抱えている本来の不安です。
このような無力感を抱えた彼女たちが、思春期を迎えたときにしがみつく手段が、痩せを病的に追及することです。彼女たちにとって痩せておくことは、単に周囲から賞賛や羨望を得られることにとどまりません。それは自分の体や欲望を思い通りにコントロールできているという万能感をもたらし、「自分には何も良いところがない」という不安を消し去ってくれます。また極度に痩せておくことで、生理が止まり、女性らしい体に成熟することにストップがかかります。これは結果的に親の関心も引くことにもなり、いつまでも子どもにとどまることができます。しかし、このようなあり方は根本的な解決をもたらしません。体重が元に戻ることを、「良いところがない自分に戻る」こととして恐れますが、食欲は否応なく襲ってきます。彼女たちは食欲に抗いながら痩せた体を保とうと努力を重ねます。こうなると、どうしたら痩せていられるか、ということを絶え間なく考える状態になります。それは、人生を痩せる以外は何も無い空っぽにしてしまうことでもあり、悪循環から抜け出せなくなるのです。
●摂食障害の治療
治るということは、体重を増やすことや過食をやめることではなく、「こんな自分でも良い」と自分の内面に肯定感を持てるようになること、心理的に自立しようとすることです。
摂食障害の方にとって、拒食、過食、嘔吐は、こころの平穏を保つ手段であり、なおかつそのような行動は依存症と同じで身体的、心理的快感が伴っています。故に、異常な摂食行動を禁止されることは、快感を取り上げられ、不安や無力感と向き合うことになります。このため摂食障害の方は、意識的であれ無意識であれ治療に抵抗感を持ちます。特効薬はなく、入院も身体的危機を一時的に乗り切ることに意味はありますが根本的な解決にはなりません。心理療法は治療の選択肢の一つですが、そのために必要なことは、治りたいという本人の意思と周囲で支える人たちの適切な関わりです。